【初心者向け】果実ごとの土壌pHと改良方法|フィリピンの実情に即した栽培指南

ナザレの里では、南国特有の果実を中心に、土地に合った農法で安定的な収穫を目指しています。本記事では、特に初心者の方向けに「果実ごとの土壌pHとその改良方法」について解説します。日本の学術的なデータの寄せ集めではなく、フィリピンの実情とナザレの里での実践経験をもとにまとめました。対象果実は、バナナ、ココナッツ、パイナップル、マンゴー、ランブータン、マンゴスチンです。
1. フィリピンの土壌とpHの基礎知識
フィリピンの多くの地域は火山性土壌で、弱酸性から中性(pH5.5~6.8)が一般的です。しかし、雨季の降雨により酸性化が進みやすく、場所によってはpH5.0前後まで下がることもあります。これを無視して作付けすると、根の生育不良、微量要素の欠乏、病気の発生といった問題が頻発します。
そこで重要になるのが、作物に応じたpHの把握と土壌改良です。
2. 作物ごとのpH適性と改良ポイント
以下、ナザレの里での実績・経験をベースに、果実ごとのpH適性と改良の実際について説明します。
2-1. バナナ(pH 5.5~6.5)
傾向と課題:バナナは酸性土壌に強いですが、極端な酸性(pH5.0以下)では窒素吸収が落ち、葉が黄化します。
改良方法:
- pHが低すぎる場合:苦土石灰を年1回、50kg/反程度散布(雨季前)。
- 有機改良:コプラ殻、バナナの伐採葉を堆肥化し、根元にマルチング。pHの緩衝材となります。
- 注意点:石灰を入れすぎると亜鉛や鉄の欠乏が起きやすい。年1回のpHチェック必須。
2-2. ココナッツ(pH 5.0~6.5)
傾向と課題:ココナッツは比較的pHに寛容ですが、極端に酸性化すると果実形成に影響します。
改良方法:
- 土壌改良材:苦土石灰よりも「ドロマイト」が効果的。CaとMgを同時補給できます。
- 有機資材:米ぬかや家畜ふんの発酵堆肥を年2回施用。緩やかにpHを上げつつ地力も高まります。
- 根元管理:ココナッツは根が浅いため、表土のpH調整が効果的。牛ふん・落ち葉マルチを活用。
2-3. パイナップル(pH 4.5~5.5)
傾向と課題:酸性土壌を好むため、他の果樹と区別して栽培が必要。
改良方法:
- pHが高い場合:硫黄粉を少量ずつ混和してpHを下げる。2か月スパンで調整。
- 不要な石灰施用を避ける:他の果樹と同じ圃場に植えないのが基本。
- 自然酸性地の活用:ナザレでは斜面や火山灰土の土地をそのまま活用し、最小限の施肥で栽培。
2-4. マンゴー(pH 6.0~7.5)
傾向と課題:マンゴーはややアルカリ寄りを好むが、pHが6.0以下になると鉄・亜鉛欠乏が出やすい。
改良方法:
- 苦土石灰または生石灰を少量:pHが5.8以下なら100kg/反以下で調整。
- 葉面散布:亜鉛、鉄、ホウ素などの微量要素をスプレー施肥(開花前と収穫後)。
- 牛ふん+石灰資材の併用:土壌の緩衝能力を高める。
2-5. ランブータン(pH 5.0~6.5)
傾向と課題:酸性土壌を好みますが、水はけとpHの両立が難しい。
改良方法:
- 傾斜地または高畝栽培:排水性を確保しつつ、pHは5.5を維持。
- 堆肥の種類に注意:鶏ふんなど強アルカリ性堆肥は避け、樹皮堆肥や葉堆肥を用いる。
- ドロマイトの点的施用:株元に小さく施用することで、pHの急上昇を防ぐ。
2-6. マンゴスチン(pH 5.0~6.0)
傾向と課題:非常にpHに敏感で、pH6.5以上では根の成長が阻害されます。
改良方法:
- 絶対に石灰はNG:土壌酸度の測定をせずに施肥するのは禁物。
- 自然由来の改良:ココナッツの繊維や落ち葉堆肥を活用し、微生物環境を整える。
- pH調整よりも地力強化を優先:やせ地では育たない。まずは腐植と有機質での地力アップから。
3. 実際の土壌pHの測り方(簡易キット活用法)

ナザレの里では以下の方法を使っています。
- 採取:表層(0~20cm)の土をスコップで数カ所から採取し、混ぜる。
- 乾燥:日陰で1日程度乾かす。
- 測定:市販の簡易pHキット(比色式)を使用。5~10分で完了。
- 記録:定期的に記録し、変化に応じて改良。
4. 「土を見る」ことが果樹栽培の第一歩
果実の見た目や収量は、土づくりで決まります。ナザレの里でも、何より重視しているのは「地力」と「根の健康」です。pH調整はそのための一手段であり、万能ではありません。土壌診断と、作物ごとの特性に応じた対応こそが、収量安定のカギです。
5. 土壌pH管理の年間スケジュールと注意点
雨季前の対応(5~6月)
- 石灰やドロマイトの施用は雨季前が最適です。雨により溶解・浸透が進み、根にやさしく作用します。
- ただし、施用後にすぐ大量の雨があると流亡するため、施用後3日以内に軽く潅水してから土中に馴染ませます。
雨季中(7~10月)
- 雨で酸性化が進む時期。pHが急激に下がるため、葉の黄化や落果が見られたら即座に葉面散布などで応急対応を。
- 土壌診断はこの時期にも重要。月1回、簡易キットで測定する習慣をつけましょう。
乾季(11月~4月)
- 土壌のpHは安定しやすい時期。牛ふん堆肥や緑肥の投入、株元のマルチングで地力を養います。
- この時期に施用した有機資材が、次の雨季にじわじわと効果を発揮します。
6. 土壌改良における失敗例と教訓
失敗例1:石灰を入れすぎてマンゴスチンが枯死
- 改良目的で石灰を全面施用したが、pHが6.5を超えたことで根が機能停止。3年目の木が全滅。
- 教訓:pHの高い果樹と敏感な果樹は圃場を分けるべき。
失敗例2:バナナのマルチングで根腐れ
- コプラ殻を敷きすぎて水はけが悪化。根が蒸れて黒変。
- 教訓:マルチングは厚さ10cm以内、雨季は一部取り除くなど調整が必要。
7. 土壌診断キットの使い方と読み方
果樹栽培の成功には、定期的な土壌診断が欠かせません。最近では、フィリピン国内でもLazadaやShopeeなどで手に入る簡易pH測定キットがあります。
測定の手順
- 畑の異なる3〜5カ所から、深さ15〜20cmの土壌を採取します。
- バケツでよく混ぜ、代表土を200gほど取り出します。
- 水と1:1の割合で混ぜてペースト状にし、pHペーパーまたはpHメーターを差し込みます。
- 2分ほど待ち、色の変化を確認します。
注意点
- 測定は朝か夕方の涼しい時間帯に行いましょう。
- 雨の翌日は避け、乾いた状態で測るのが望ましいです。
- 年に2回(乾季前、雨季前)を目安に実施すると効果的です。
8. フィリピンにおける果樹の栽培地とpH特性の傾向

中部ルソン(Nueva Ecija、Tarlacなど)
- 一般的にpH5.0〜6.0の弱酸性。
- バナナ、マンゴー栽培に向くが、ランブタンやマンゴスチンは石灰を加えて中性に近づける必要あり。
ビサヤ地方(Negros、Cebuなど)
- サトウキビの影響で土壌が酸性に傾く傾向あり。
- ココナッツやバナナは問題ないが、マンゴーは黄化が出る場合あり。
ミンダナオ(Davao、Bukidnonなど)
- 火山性土壌が多く、有機物が豊富だが酸性が強い(pH4.5〜5.5)。
- 石灰・苦土の施用は不可欠。特にマンゴスチンやランブタンのpH調整は重要。
9. 天然素材を使ったpH改良法
農薬や化学肥料に頼らず、現地にある資材を活かして土壌改良を行う方法もあります。
ドロマイト(苦土石灰)
- pHを中和しつつマグネシウムを供給。
- 使用量:1平方メートルあたり100〜200g(年1回)
焼成貝殻
- フィリピンでは海岸部に豊富。細かく砕き、畑に散布。
- 使用量:1平方メートルあたり150g
木灰(Rice hull ash, 木炭灰)
- カリウム・カルシウムが豊富。pH上昇効果もあり。
- マンゴー、ココナッツに最適。ただしバナナには慎重に使用。
発酵鶏糞・牛糞
- 酸性を緩和し、土を団粒化。乾季の土壌保水にも貢献。
- ただし塩分濃度が高くなりすぎないよう、施用後は雨または潅水で十分に馴染ませます。
10. 経験に基づく樹種別ワンポイントアドバイス
バナナ
- 弱酸性(pH5.5〜6.5)を好む。
- 水はけが悪いと根が蒸れやすく、萎凋(いちょう)病やパナマ病にかかりやすい。
- 収穫後は必ず株元を整理し、新芽の更新を早める。
ココナッツ
- pHに対して寛容(pH5.0〜7.0)だが、幼木期には十分な排水と光が必要。
- 火山灰土壌でも良く育つが、乾燥期にはマルチングが重要。
パイナップル
- 酸性(pH4.5〜5.5)でも育つが、カルシウム不足で果実が小さくなりがち。
- 畝立て+黒マルチで地温管理と雑草抑制を徹底する。
マンゴー
- 中性(pH6.0〜7.0)が理想。酸性土壌では鉄分の吸収障害が起きやすい。
- 3年目以降から開花調整のため、カルシウムとホウ素の葉面散布が効果的。
ランブタン
- やや酸性(pH5.0〜6.0)を好む。
- 降雨が多い地域では排水不良に注意。盛り土・客土が重要。
マンゴスチン
- 中性に近い弱酸性(pH5.5〜6.5)が理想。
- 過湿に弱く、乾季でも土壌の湿潤を保つためのシェード管理が必要。
まとめ:果樹栽培とpH管理の“現場感覚”

pHはあくまでひとつの指標にすぎません。理想とされるpHの範囲内であっても、果実の育ちが思わしくないこともあれば、範囲外でも驚くほど良い実をつけるケースもあります。重要なのは、「数字だけを信じすぎないこと」、そして「目で見て、手で触れて、匂いを感じながら、土を読むこと」です。ナザレの里のように、熱帯性果樹を多種混栽する農園では、単にpH値を合わせるだけでは不十分です。土壌の構造、水はけ、保水力、日照や風の当たり具合までを視野に入れた総合的な“根圏環境”の設計が求められます。
堆肥やマルチングで土を育て、適切な排水と灌水で根を守り、風よけや日除けでストレスを抑える――。そうした一つ一つの積み重ねが、何年か後にようやく実を結ぶ。果樹栽培とは、自然と対話しながら時間をかけて信頼を築いていく営みです。
土は生きています。そして、それに寄り添う農の知恵もまた、生きた技術であるべきです。
コメント