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魚介類の養殖

【実録シミュレーション】フィリピン地方におけるテラピア養殖の収支モデルとは?

【実録シミュレーション】フィリピン地方におけるテラピア養殖の収支モデルとは?

1. はじめに

フィリピン農村部では、養殖業が農業に次ぐ副収入の柱として注目を集めています。なかでもテラピアは、飼育が比較的容易で成長も早く、初期投資も控えめなことから、小規模経営者に人気の高い淡水魚です。

しかし一方で、思ったほど利益が出ない労力に見合わないという声も少なくありません。本記事では、実際にフィリピン地方でテラピアを**1000㎡の池で粗放養殖(semi-intensive)**した場合のシミュレーションを行い、収益性と現実的な課題を検証していきます。


2. 養殖条件の設定

以下の条件で収支シミュレーションを行います。

  • 養殖魚種:テラピア(Tilapia)
  • 池面積:1,000㎡(= 約20m × 50m)
  • 飼育密度:5尾 / ㎡(合計 5,000尾)
  • 稚魚サイズ:0.5インチ(1尾あたり1P)
  • 出荷サイズ:300g以上
  • 生存率:80%
  • FCR(飼料要求率):1.5
  • 飼料価格:35P / kg(地元配合飼料)
  • 販売価格(Farm gate price):80P / kg
  • 飼育期間:4~5ヶ月(1サイクル)
  • 年間サイクル数:2回(排水と乾燥期間含む)

3. 初期投資とインフラ整備費

項目内容金額(PHP)
池整備(掘削・堤防補強含む)粘土質地盤の手堀+小型バックホウ使用120,000
排水・給水設備塩ビパイプ、バルブ、ポンプ等25,000
簡易倉庫・道具置き場トタン屋根のシェルター15,000
網・スクリーニング用具稚魚保護・収穫用ネット10,000
合計170,000 PHP

※既存の池を使用する場合、コストは大幅に圧縮可能。


4. 運転コスト(1サイクルあたり)

項目単価数量合計(PHP)
稚魚代(0.5インチ)1P / 尾5,000尾5,000
養殖生存尾数4,000尾(80%)
出荷重量(300g/尾)1,200kg
飼料必要量FCR1.5 × 1,200kg = 1,800kg35P/kg63,000
労働費(家族・日雇い含む)400P / 日30日12,000
電気・水・ポンプ燃料月1,500P4ヶ月6,000
雑費・薬品・メンテ一式5,000
合計91,000 PHP

5. 収入見込み(1サイクルあたり)

項目数量単価合計(PHP)
出荷重量1,200kg80P/kg96,000 PHP

6. 損益計算:1サイクル

項目金額(PHP)
総売上96,000
総コスト(運転)91,000
粗利益5,000 PHP

つまり1サイクル(4〜5ヶ月)での手取り利益は5,000P程度となり、年2回実施しても約10,000Pに過ぎません。


7. 問題点と見落としがちなコスト

  • 出荷価格の変動:実際には雨季・乾季の需給バランスで価格が70P台に落ちることもあり、利益が出ないケースも多い
  • 廃棄・病気のリスク:急な温度変化や酸欠で大量死の可能性あり。
  • 出荷タイミングが集中:周辺地域と出荷時期がかぶると価格競争に。
  • 池の乾燥と再整備:毎年乾期には池を空ける必要があり、次期の準備費用がかかる。

8. なぜ利益が少ないのか?

最大の要因は、販売価格の構造にあります。フィリピンの地方養殖業者は出荷後すぐに現金化する必要があり、地元の仲介業者に販売せざるを得ないことが多いです。

これらの業者はリスクを背負って都市部に輸送・販売するため、適正な利益を確保するには卸値を下げて購入せざるを得ません。結果として、生産者が望む価格で販売できるケースはまれです。

さらにFCR(飼料要求率)が1.5とはいえ、飼料価格の上昇リスクが常につきまとい、少しの変動で収支が赤字に転じる危険もあります。


9. 結論:テラピアは副業向きだが、本業化は難しい

テラピアは、副収入としては魅力的ですが、家族労働や既存インフラを活用しない限り、商業ベースでの持続的な利益確保は厳しいというのが現実です。

また、生体を扱う事業である以上、リスクと不確実性は避けられません。だからこそ、単一養殖に頼らず、他の果樹栽培や加工品製造と組み合わせた複合経営が求められます。


10. ナザレの里では


■ ナザレの里での判断と今後の展望

ナザレの里でも、過去にテラピアやバナメイエビといった養殖導入の可能性を検討した経緯があります。しかし、今回紹介したような収益構造上の限界や、流通のひずみによる価格の圧縮、そして飼料費や初期投資の回収が難しい現実を踏まえ、現在のところ見送りとしています。

もちろん、うまく経営されている農家があることも事実ですが、それは自然の恩恵に恵まれた条件や、規模・販売ルートなどの特別な要素が揃った場合に限られるのが現実です。

特に、人工池+市販飼料依存型の粗放養殖では、初期投資の回収に時間がかかるうえ、流通の末端価格があらかじめ決まってしまっているため、「自助努力による価格転嫁」が難しく、経営の自由度がきわめて低くなります。

この国の経済構造に健全なインフレが起きない限り、農業者・養殖業者が市場価格にコストを転嫁できるようなフェアな取引環境は整わないと私たちは見ています。

■ 今後の方向性について

現在、ナザレの里ではテラピアなどの魚類養殖ではなく、果樹の混栽(パパイヤ、バナナ、マンゴーなど)とその加工品の販売を主軸に置いた自立的な農業モデルを実践しています。

また、将来的には以下のような方向性での発展を視野に入れています:

  • 陸上養殖(例:湧水利用した小規模かけ流し養殖)
  • 収穫物の直売体制整備(ファームゲート販売+地元連携)
  • 加工品のブランド化による付加価値創出

これは、自然環境と経済現実の両方に寄り添った持続可能な農業・養殖の形を模索するものです。

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